今日の午前の手術は、人工股関節全置換術(THA)でした。
スリムな60歳台の女性だったので、非常に容易な手術でした。
閉経後の女性の場合、骨質が意外と不良なことが多いです。大腿骨骨幹部の皮質骨はしっかりしているのですが、転子部などの骨幹端や寛骨臼の骨質には注意が必要です。
案の定、今日の方も寛骨臼の骨質が脆かったので、リーミングは30秒ほどで完了しました。最初から全力でリーミングしてしまうと、前後壁をとばしたり内板を穿孔することがあるので要注意です。
このあたりのポイントさえ押さえれば、脆弱な骨質はむしろ手術時間の短縮につながります。リーミングとラスピングでほとんど時間を取られないので、あっという間に手術が終了してしまうのです。
このような骨質が不良の患者さんは、術後しばらくしてから骨粗鬆症の治療を開始することが望ましいでしょう。私の場合、術後3ヶ月目からビスフォスホネート製剤投与を開始します。
なんと言っても実際に患者さんの骨を触ったり掘削して大腿骨や寛骨臼の骨質を充分に評価しているわけですから、どんな検査よりも正確に骨質を判断できているのです。
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初学者がTHAの治療体系を俯瞰するにあたり、最もお勧めの書籍です
人工股関節全置換術
骨粗鬆症
東京大学整形外科 川口准教授の講演で、ビスフォスフォネート系薬剤関連顎骨壊死(Bisphosphonate-related osteonecrosis of the jaw; BRONJ)におけるRisk-Benefit Analysisについて発表されていました。
海外の大規模なメタアナリシスでも、ビスフォスフォネート製剤(BP製剤)の服用により重症骨粗鬆症患者さんの骨折リスクが10年間で約50%も軽減する効果を見込めることが明らかになっています。
一方、BRONJの発生頻度は、0.01~0.1%/年といわれています。つまり、BP製剤を服用して約50%の骨折リスクの軽減効果を採るか、BP製剤を服用せずに0.01~0.1%のBRONJ発生リスクを回避するかということになります。
単純に比較すると50×10年 :0.1~0.01×10年=50 :1~500 : 1のリスク・ベネフィット比です。客観的にみて、どちらを選択するべきかは明白だと思います。
米国ではRisk-Benefit Analysisの考え方が浸透しているためか、米国歯科学会がBRONJ発生を恐れてBP製剤の投与を回避するべきではないというポジションペーパーを出しています。
さすがに、米国歯科学会が率先してこのようなポジションペーパーを出すとは恐れ入りますが、やはり数字を客観的に判断することは重要なことなのかなと感じました。
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骨粗鬆症と高尿酸血症のガイドラインです。エビデンスに基づいた治療指針を学べます。
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン〈2011年版〉
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先日、東京大学整形外科 川口准教授の骨粗鬆症治療薬選択に関する講演を拝聴してきました。海外の骨粗鬆症関係の文献のレビューが講演の題材となっています。川口先生の視点から、骨粗鬆症治療のアルゴリズムを提示されていました。
実は1年ほど前に私の義母(70歳台前半)が第1腰椎圧迫骨折を受傷しました。受傷機転は重量物を持つという軽微な外傷でした。脆弱性骨折であり問答無用で薬物治療開始の適応となります。
椎体骨折の既往が無く、今回が初めての骨折でした。椎体骨折の場合には、最初の骨折をいかに脊椎アライメントを整えて治療するかが再発を防止する上で重要なポイントになります。
費用負担を考えないのであれば、フォルテオのようなPTH製剤で最初の2年間で骨質の改善をはかり、その後ビスフォスフォ製剤(BP製剤)で改善した骨質を維持するという治療戦略がベストであると考えています。
ただ、明白なエビデンスを持っていなかったので、「常識的に考えたらこれが現時点でベスト」と言って治療するよう仕向けていました。しかし、川口先生はBP製剤→PTH製剤よりも、PTH製剤→BP製剤の方が骨質改善効果が高いというデータを示されました。
エビデンスとしても、PTH製剤で最初の2年間で骨質の改善をはかり、その後BP製剤で改善した骨質を維持するという治療戦略が有効であるというデータを見て安心しました。
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先週金曜日の午前は、人工膝関節全置換術(TKA)でした。
高度の骨粗鬆症+膝蓋骨低位で展開するのに非常に神経を使いました。
このような症例では術中骨折や骨切り面の損傷を併発しやすいので、細心の注意が必要となります。相当注意していましたが、残存していたPCLに引っ張られて脛骨後顆の裂離骨折を併発しました。ただ、最も警戒していたのは膝蓋腱停止部の裂離骨折だったので、無事手術を終えることができてホッとしました。
膝蓋骨低位の症例では、下記の如くの対応が必要です。
① medial parapatellar approachで展開する
② 大腿四頭筋腱をより中枢方向まで切離する
③ 膝蓋骨のラフカット
③に関してですが高度の骨粗鬆症症例に対してラフカットを早い段階で派手にやりすぎると、術中操作の際に膝蓋骨下極骨折を併発することがあるので注意が必要です。
骨粗鬆症の方の手術は何が起こっても不思議ではないので、無事に終了できて安堵しています。
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昨日の午後は、大腿骨顆上骨折に対する骨折観血的手術でした。
寝たきりで股関節および膝関節の屈曲拘縮をきたしている超高齢者の方でした。
このような方は廃用のため、全身の関節が拘縮しています。そのためオムツ交換などの際にスムーズに開脚できないことが原因となって、大腿骨近位部骨折や大腿骨顆上骨折をおこしてしまいます。介護の現場ではこのような骨折を『 オムツ骨折 』と呼ぶそうです。
普段から拘縮をつくらない介護を行うのが予防方法と言われていますが、実際の現場ではなかなかそんなキレイごとは通用しないと思います。そして、発生してしまった骨折は我々整形外科医が治療せざるえません。
このような骨折をおこす方は、高度の骨粗鬆症であることがほとんどです。ギプス固定などの保存治療も、手術治療を選択するのも難しいため、頭を抱えてしまいます。単純X線像ではほとんど皮質骨が無いことが多いため手術を行っても十分な固定力を得られませんが、保存治療では骨折部の褥創や偽関節を高率に併発します。
昨日の手術は、このように大腿骨の皮質骨がほとんど確認できないような方でしたが、ロッキングプレートで内固定したところ及第点と思われる固定力を得ることができました。ロッキングプレート/スクリューの登場で、高度の骨粗鬆症症例でも治療可能になったのだなと改めて感じました。
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