整形外科医のブログ

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骨軟部腫瘍

胸鎖関節部腫脹を甘く見るな!

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先日、外来で右胸鎖関節腫脹の患者さんが受診しました。単純X線やCTでは右胸鎖関節症(SAPHO症候群)のようでした。


もちろん、これ自体は特に珍しいわけではありません。しかし、だからと言って安易に考えるのは禁物だと思っています。


なぜなら、つい先日診察した患者さんは乳がんの骨転移だったからです。この患者さんも右胸鎖関節の腫脹を主訴に受診されました。特筆すべきはそこそこの疼痛もあったことです。


単純X線では鎖骨近位の一部に骨融解像を疑う所見がありました。驚いてCTを施行したところ、比較的境界明瞭ではあるものの背側皮質の一部が欠損している所見がありました。


MRIでも転移性骨腫瘍疑いです。乳がんの既往があったため外科に紹介したところ、やはり乳がんの骨転移とのことでした。


単なる胸鎖関節症だと思っていたら痛い目に会うところでした。臨床には本当にさまざまな落とし穴があります。気を付けなければ、、、と改めて思いました。






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手指軟部腫瘍のポイント

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先日、手指DIPJレベル背側の軟部腫瘤が主訴の患者さんが受診されました。普通に考えたらHeberden 結節の mucous cyst もしくはガングリオンです。


気軽に穿刺したのですが、内容物を吸引できません。あれ???MRI を施行すると単純ではよく分からず、造影してみると腱鞘巨細胞腫GCTTS)っぽいことが判明しました。


手指のこの部位に発生する軟部腫瘍は、schwannoma もしくは GCTTS であることが多いそうです。通常、部位発生の腫瘍であれば、悪性の可能性は低いでしょう。


このため、痛み・しびれ・可動域制限等の症状がなければ、手術の絶対適応ではありません。ご存知のように GCTTS は5~30%と局所再発率が高いです。


病理的には色素絨毛結節性滑膜炎(PVS)と同一群の疾患であり、辺縁切除術での局所再発率が高いことがピットフォールです。


このため、特に症状が特に無いのであれば経過観察が吉だと思われます。ガングリオンを疑って穿刺しても何も吸引できないときには少し焦ります。


そのような時でも、手指に発生した小さな軟部腫瘍には悪性腫瘍が少ないことを念頭に、落ち着いて外来を進めたいものです。






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骨・軟部腫瘍診療のピットフォール

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日本整形外科学会誌 90: 229-236 2016の教育研修講座の「骨・軟部腫瘍の診療におけるピットフォール」を拝読しました。副題は、腫瘍が怖くなくなるために です。


今回の教育研修講座は新潟大学の生越章先生の講演で、腫瘍が怖くなくなることを目的に骨・軟部腫瘍診療におけるピットフォールを紹介されていました。


生越先生は私見と断りつつも、骨腫瘍のピットフォールは腫瘍の存在を見出せないことがある点を強調されています。主な骨腫瘍診断のピットフォールは下記のごとくです。


1. 痛みと腫瘍の部位が一致しない例がある
  • 骨盤腫瘍の膝痛・大腿部痛
  • 胸椎腫瘍の腰痛・側腹部痛
2. 単純X線像・CTでは腫瘍の存在が分からない例がある
  • 骨梁浸潤型腫瘍の存在 → 悪性リンパ腫、小細胞がん、Ewing肉腫
3. 悪性腫瘍でも血液・生化学データが正常なことも多い
4. 強力な疼痛緩和薬が腫瘍発見を遅らせる可能性がある




一方、軟部腫瘍では悪性を良性と勝手に判断してしまう点を強調されています。主な軟部腫瘍診断のピットフォールは下記のごとくです。


1. 悪性を良性と判断して、不適切手術を施行される例
  • 術前画像がないと追加広範切除の計画が困難
  • 手術による腫瘍汚染のため、追加手術は大がかりな切除になる
2. 悪性を良性と判断し、「放っておいてもよい」「心配ない」と告げられる例
  • その後、患者は医療機関をなかなか受診しない
3. 悪性腫瘍を非腫瘍性疾患と判断され、治療が遅れる例
  • 炎症や観戦・血腫などと判断されてしまう


上記の①②は、悪性軟部腫瘍を良性と勝手に判断してしまったことによって起こってしまう問題です。具体例を挙げられていて、私自身も身につまされる思いです・・・




軟部腫瘍診断のポイントは下記のごとくです。意外な項目が並んでいることに驚きます。触診だけで脂肪腫と確定診断する技能を持ち合わせていないと述べられていることは傾聴に値します。


1. 小さな軟部肉腫は多い
  • 軟部肉腫の1/4は治療時5cm以下である
  • 良性腫瘍が大きくなって悪性になるのではない
2. 柔らかい軟部肉腫も多い
  • 粘液成分の多い肉腫は、触診で脂肪腫や噴流に類似する
3. 境界明瞭な軟部肉腫も多い
4. 可動性良好な軟部肉腫も多い
5. 良性か悪性かを考えるのではなく、「腫瘍が何か」を考えるべき


上記の①~④は全て私にとってはトリビアです。そして⑤は非学の身としては難しい・・・。やはり軟部腫瘍の診断は、骨腫瘍の診断に比べてかなり難しい印象です。


最後に生越先生は、プライマリケアにあたる医師は、ここまでは自分で診断できるという分野を自分で設定し、それ以外のところは専門医に任せるというスタンスを推奨されています。




参考: 私が実践する骨軟部腫瘍診察の基本






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動脈瘤様骨嚢腫(ABC)の腫瘍切除術

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先日、踵骨にできた動脈瘤様骨嚢腫(aneurysmal bone cyst: ABC)に対する腫瘍切除術を行いました。ABCは骨病巣が動脈瘤様に膨隆する骨腫瘍類似疾患です。


嚢腫内に血液が充満し、内壁は線維性結合織によって構成され大証の血管腔を認めます。鑑別診断として骨巨細胞腫、単純性骨嚢腫、血管拡張型骨肉腫が挙げられます。


治療は手術治療で掻破・骨移植術が一般的です。ただし、術後の再発率は19~44%と高いです。大学の腫瘍班の先生にお伺いしたところ、再発防止のために下記の方法を勧められました。


  1. 物理的に内壁を掻破
  2. 液状フェノール(88%以上のもの)をツッペルにつけて内壁を2~3回こする
  3. 終了したら無水エタノールでフェノールを中和する
  4. 最後にα-TCPを充填する


単純性骨嚢腫などでは自家骨に置換されるβ-TCPを使用しますが、自家骨やβ-TCPでは高率に再発するので、α-TCPを使用するのがポイントです。


術後後療法に関しては、今回は踵骨なので3週間免荷の後に部分荷重を開始して、術後2ヵ月で全荷重まで持っていく予定です。



追記:
病理検査の結果はABCではなく骨巨細胞腫(GCT)でした。 大学の腫瘍の先生に確認したところ、下記のような対応を指示されました。

  • 再発率が高いので、2~3ヵ月に一度の頻度でXp確認が必要
  • 2年以降は再発率が低くなるので、最初の2年間はしっかりフォロー
  • もし再発すればランマーク(デノスマブ)を投与する 




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さようなら、非骨化性繊維腫!

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私の記録の中で、現在の勤務先の勤続年数は最長記録を更新中です。
一般的に医局人事で動いていると、2~3年周期で異動することが多いと思います。


卒後教育や不公平感是正という意味では、これぐらいのスパンの異動は望ましいと思います。しかし、ひとつの施設に長い間勤務していなければ分からないこともあることに気付きました。


先日、大腿骨遠位骨幹端の非骨化性繊維腫(Non-ossifying fibroma: NOF)の18歳女性を無事に「送り出し」ました。「送り出した」とは、経過観察終了にしたということです。


この患児は12歳から外来フォローを続けていました。当初は膝関節打撲で単純X線を撮影したのですが、偶然にも大腿骨遠位骨幹端にそこそこのサイズの非骨化性繊維腫を発見したのです。


通常、自分だけでこれだけ長期に渡る外来フォローを行うケースはあまり無いと思います。たいてい異動のタイミングで「もう、そろそろ終了にしよう」や後任医師に任せることになります。


しかし、自分が前任医師から託されたNOFなどの疾患は、自分が主体になって最後までフォローしている実感をイマイチ得ることができませんでした。


一方、今回のケースでは15歳を超えてから急激に骨透亮像が小さくなっていくことを確認できました。そして、遂に先日撮影した単純X線像では骨透亮像が消失したのです!


まだ小学生だった患児が大学生になる姿を見るのは、ちょっと感無量でした(笑)。もちろん、年に1回しか診察しないので、小学生の頃の顔ははっきり覚えていません。


しかし、教科書通りにきっちり二十歳前にNOFが消失する経過は、ひとつの施設で長い年月勤務しなければなかなか味わえない経験かなと思いました。




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