先日、アルバイト先で外来をしていた際、70歳台女性が腰背部の腫瘤を主訴に初診されました。腫瘤は以前からあって特に痛みも無いのですが、家人から指摘されて受診したそうです。
診察すると左腰背部に径10cm程度の可動性はそれなりにある弾性軟の腫瘤を触知しました。外観上は脂肪腫っぽかったのですがサイズが大きいためCTを施行しました。
CTでは左腎背側に筋欠損部が存在し、そこから筋層外に腎周囲の脂肪織と思われるlow density massの脱出を認めではないですか!
てっきり脂肪腫だと思っていたので、その日は患者さんに帰ってもらい放射線科医師の読影を待ちました。しかし、放射線科医師の読影結果は、なんと「脂肪腫」でした・・・。
おかしいなぁ と思いながらも脂肪腫ならば、とMRIを依頼しました。しかし、MRIの画像を確認すると明らかに背筋が欠損しており、腫瘤は後腹膜の脂肪組織と連続していました。

外科医師に相談すると、これは特発性の「上腰ヘルニア」ではないかとのことでした。患者さんの腰背部腫瘤を触知すると、患者さんの発声が腫瘤を通じてダイレクトに私の手に伝わります。
これは明らかにヘルニアです・・・。放射線科医師の読影を鵜呑みにして”腫瘍切除術”を施行するとエライ目に会うところでした。放射線科医師の読影と言えども盲信してはいけないようです。
それにしても「上腰ヘルニア」は、こちらの文献によるとかなり珍しい疾患のようです。こんな国内で数十例しか報告の無い他科の症例に遭遇するとは、私は運が良いのか悪いのか・・・。
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骨・軟部腫瘍および骨系統・代謝性疾患 (整形外科専門医になるための診療スタンダード 4)