今日の午前は出張先での外来でした。
先週に80歳台前半の女性が1週間前からの突然の右股関節部痛で受診されました。
単純X線像で少しだけ右股関節関節裂隙の狭小化を認めました。立位の骨盤はかなり後傾していました。念のため週末にMRIを予約して、本日はその結果説明に受診されたのです。
T1WIで大腿骨頭軟骨下に低輝度領域、fat suppressionで大腿骨頭~転子部の高輝度領域を認めました。T1WIでの低輝度領域は骨頭軟骨下に沿うような(つまり中枢凸の)帯状領域でした。
診断は、大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折(subchondral insufficiency fracture of femoral head: SIF)です。この骨折は骨粗鬆症などに起因する骨脆弱性がベースとなって、骨盤後傾例などで荷重が大腿骨頭の一部分に集中することで発生します。
初期の変化はMRIを施行しないとなかなか捉えられないので注意が必要です。単純X線像で何も所見が無いのでしばらく経過観察していると、2ヶ月ほどで大腿骨頭が無くなっていた!という例も散見します。
SIFは一度発症すると関節適合性が破壊されるので、そのまま放置すると変形性股関節症もしくは急速破壊型股関節症(RDC)に移行することが多いのです。
SIFは高齢者に多く発症するので、痛みが高度の場合には早期にTHAを施行することが望ましいと思います。少しだけですが、手術時の注意点はこちらに記載しております。
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人工股関節全置換術
SIF
昨日の手術は、午前・午後とも人工股関節全置換術(THA)でした。
午前中の方は、特にリスクも無かったのでいつもどおり前外側アプローチで手術を行いました。
しかし、午後の方は大量のステロイドを内服しているため、高度の骨脆弱性を有する症例でした。両寛骨臼荷重部および左大腿骨頭に脆弱性骨折を併発するぐらい高度な骨粗鬆症だったのです。
今年の6月の発症にも関わらず、たった5ヶ月で大腿骨頭および寛骨臼の高度の圧潰をきたしたので、いわゆる狭義の急速破壊型股関節症(RDC)の定義を満たします。
このような方では、軟部組織をレトラクトするだけでも寛骨臼前後壁に骨折を併発することがあります。術中は、組織に出来る限り緊張が掛からないように配慮する必要があるのです。
したがって、この方には後外側アプローチで手術を行いました。後外側アプローチは展開が容易で組織に緊張が掛からないのですが、デメリットとして前外側アプローチと比べて股関節安定性に難があります。
逆に前外側アプローチでは組織の緊張が強く展開が難しいですが、術後の股関節安定性は抜群です。私は前外側アプローチ派なので、後外側アプローチでは非常に股関節安定性に気を使います。
カップの前方開角やステムの前捻角などでは、アプローチの違いによって目標角度に微妙な違いがあります。またリーミングの際に掘削されがちな方向も違うため注意が必要です。
後外側アプローチで展開が容易であったため手術は難無く終了しましたが、慣れないアプローチでは細かい所にまで気を使うので非常に気疲れする手術でした。
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大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折(subchondral insufficiency fracture of femoral head: SIF)の症例でした。
手術自体は、通常の変形性股関節症と変わりませんが、やはり骨質が悪いので寛骨臼のリーミングの際には軟骨下骨を全て掘削してしまわないよう注意が必要です。
SIFの場合、特発性大腿骨頭壊死症(ION)との鑑別が問題になります。
まず、単純X線像ですが、SIFでは骨盤が後傾していることが多いです。
MRIでは、IONはT1WIで有名な末梢側凸のバンド像を認めますが、SIFでは大腿骨頭直下に中枢側凸の帯状低信号領域を認めます。
まあ、診断を間違えても若年者でなければ、治療はTHAなので問題ないのですが・・・。
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