整形外科医のブログ

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SSI

SSI予防における手術室設備と環境

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日整会誌92: 5-9 2018に興味深いシンポジウムの論文がありました。SSI予防における手術室等の設備、環境に関するエビデンス です。要旨を下記に記載します。



この論文では、国際コンセンサスと新JOAガイドラインの2つのガイドラインを中心に、手術部位感染(surgical site infection, SSI) 予防のトレンドについて概説されています。




術野毒薬について

整形外科の清潔手術における術前皮膚消毒は、グルコン酸クロルヘキシジンとポピドンヨードのどちらでもよいが、使用する際はアルコールを併用した方がよい




粘着ドレープについて

消毒後、時間依存性に残存菌は再増殖する。ポビドンヨード含有ドレープではSSIのリスクが減少する可能性があるが、非含有ドレープではリスクが減少するエピデンスはない。




手術室換気能について

バイオクリーンルー ムの有用性に関しては、世界的に認識が変容している。国際コンセンサスでは、手術室への人の出入りは最小限にとどめることを推奨している。


国際コンセンサスでは、「バイオクリーンルームの 有用性は不明であり、人工関節置換術は必ずしもバイオクリーンルームで行う必要はない」とし、宇宙服も同様とまとめている。




手術室入室時の履物の変更について

手術室内で外履き用一般シューズを利用することはSSI リスクである可能性が残ると考えられるが、質の高いエビデンスがあるわけではない。




抗菌縫合糸について

術野汚染は手術の後半ほど多く、特に閉創時に術野汚染率が高くなる。そのため術野汚染リスクの高い閉創時に抗菌活性のある縫合糸を用いることは、理にかなった対策と言える。




除菌について

Perlらは、黄色ブドウ球菌による SSI の約 85% (33/39 例)が 術前鼻腔から同定された菌と一致したと報告した。黄色ブドウ球菌の保菌部位は、健常者では鼻腔が27%と最も高い。


そのため、鼻腔保菌着に対して鼻腔だけでなく全身の除菌も同時に行うことで深部SSIが予 防できたとする報告がある。


国際コンセンサスでは、術前の皮膚除菌は「有用である。術前に皮膚をグルコン酸クロルヘキシジンで除菌するべきである」としている。


また、鼻腔除菌については「黄色ブドウ球菌(MSSAおよび MRSA)についての術前スクリーニングと検出例に対する除菌は、SSI 発生割合を減少させると認識している」としている。


「鼻腔内へのムピロシン短期投与が、MRSAおよびMSSA除菌の方法として、現在最も広く受け入れられている」とまとめています。

      




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ガイドラインからみた抗菌薬の使い方

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日整会誌90: 1031-1035 2016に興味深い論文がありました。
ガイドラインからみた抗菌薬の使い方 です。要旨を下記に記載します。



SSI発生率

  • 人工関節置換術 1.36%
  • 脊椎instrumentation手術 3.73%


原因菌
  • MRSAやMRSEの割合は、人工関節置換術 46%、脊椎instrumentation手術 44%


術前の鼻腔内および全身の皮膚の除菌の有効性
  • ムピロシンによる鼻腔内除菌がSSI発生を低下させる可能性を示す報告が多くみられます。
  • APICの2010年のガイドラインでは、選ばれた手術にMRSA保菌者の除菌を行うとしています。
  • 除菌方法としてムピロシンの鼻腔内塗布1日2回+2~4%クロルヘキシジン(ヒビテン)の全身浴を術前5日間施行とあります。


抗菌薬の1回投与量
  • 標準投与量を推奨
  • CEZでは、体重80kg以上で2g、体重120㎏以上で3gを推奨する勧告があります。


投与間隔
  • CEZの場合、2~5時間ごとに追加投与して組織内濃度を有効域に保つ必要があります。


投与期間
  • 耐性菌の増加を防ぐために、術後48時間以内を推奨


抗菌薬の選択
  • ブドウ球菌に対して抗菌活性が強く安全性の高いCEZが第一選択


抗MRSA薬の予防投与の適応
  • MRSA保菌者に対しては、鼻腔の除菌+β-ラクタム系薬+VCM
  • β-ラクタム系薬を併用するのは、VCMのMSSAに対する抗菌力がやや弱く、グラム陰性桿菌に対する抗菌力が無いからです。




ガイドラインを拝読した私の感想は、鼻腔内除菌が再評価されていることに対する驚きでした。頻回に易感染性の患者さんの手術を担当する私としては、今後検討したい課題です。






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周術期SSI予防のトピックス

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日整会誌90: 1017-1022 2016に興味深い論文がありました。
周術期におけるSSI予防のための管理・対策 です。以下に要旨を記載します。


米国では人工関節置換術後の手術部位感染(surgical site infection:SSI)の発生数・発生率は増加傾向ですが、国内では人工関節置換術のSSI発生率は約0.8%と下げ止まっています。


一方、脊椎手術のSSI発生率が増加傾向にあり、脊椎固定術で約1.6%と人工関節の倍の発生率です。整形外科手術の中では、脊椎インスト手術はSSIリスクの高い術式のようです。


一般的に、SSIリスクは汚染細菌量と細菌毒性に比例し、宿主免疫に反比例すると考えられています。SSI予防のためには、手術部位の汚染細菌量を減らす努力が重要になります。



まず、消毒ですが、現存する消毒薬はいずれも殺菌能に限界があるため、どんなに丁寧に消毒しても、消毒直後から一定の割合で細菌が再増殖することを前提にする必要があります。


特に粘着ドレープ無しの場合、細菌の再増殖スピードは顕著です。このため、術中に粘着ドレープが剥がれている部分に触れることは、汚染リスクを高めます。


そして、ライトハンドル、吸引管などさまざまな手術器具は汚染されており、術野周囲の器械台は、時間依存性に細菌量が増えていきます。


更に、バイオクリーンルームや宇宙服の有用性は、近年になって疑問視されています。驚くべきことに、生理食塩水による術野洗浄のSSI予防効果にも、エビデンスがないとのことです。


一方、希釈イソジン洗浄は、脊椎領域の2つのRCTで中等度のエビデンスがあるようです。2014年のCDCの改定ガイドライン草案でも、希釈イソジン洗浄が推奨されています。


SSI原因菌で最も多いのは、人工関節置換術・脊椎インスト手術ともにMRSAです。しかし、VCMの単剤使用ではMSSAによるSSIリスクが高まるため、セフェム系との併用が推奨されます。


2002年のPerlらの報告において、MRSA感染の成立は鼻腔由来である可能性が示唆されています。そして鼻腔保菌者は全身保菌率も高くなることが知られています。


そのため、鼻腔保菌者に対して鼻腔だけではなく、ヒビテンによる全身薬浴を同時に行うことで、深部SSIを予防できたという下記の報告があります。



Preventing surgical-site infections in nasal carriers of Staphylococcus aureus.
Bode LG, Kluytmans JA, Wertheim HF, Bogaers D, Vandenbroucke-Grauls CM, Roosendaal R, Troelstra A, Box AT, Voss A, van der Tweel I, van Belkum A, Verbrugh HA, Vos MC. N Engl J Med. 2010 Jan 7;362(1):9-17.



実際、英国では国をあげて取り組んだ結果、MRSA-SSIが、2004年の25%から2014年の5%まで改善したそうです。日本では保険収載されていないのが残念ですが注目するべき対策です。
 

最後に、脊椎手術のSSI対策としてVCMパウダーが注目されていますが、安全性が確立されていないため、安易な使用には慎重になるべきとのことでした。 






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感染予防ガイドラインのトリビア

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昨年、骨・関節術後感染予防ガイドライン2015が改定されました。
何点か興味深い内容があったので、ご紹介させていただきます。









清潔手術のSSIの原因菌がどこからくるのかという問題


クリーンエアシステムによりSSI発生率が9.5%から1.1%に減少したCharnleyの報告から、術中の落下最近などの外因性細菌によりSSIが発症すると考えられてきました。


しかし、感染部位から得られたSSIの原因菌(黄色ブドウ球菌)と鼻腔内の黄色ブドウ球菌が遺伝的に高頻度に一致するという報告が2編あります。


このことから、SSIの原因菌が術中の落下細菌などの外因性感染以外にも患者自身の保菌に由来する内因性感染の存在が示唆されるようです。




バイオクリーンルーム


最近、人工関節手術において層流設備(バイオクリーンルーム)を使用していた群の方が、SSIの発生率が高かったとする報告が複数の国からありました。


このことからバイオクリーンルームは術野周囲の環境により、SSI発生率については逆効果になる場合もあるようです。


しかし、これらの報告に基づいてバイオクリーンルーム使用をGrade Dにすると大問題になります。このためガイドライン策定委員会はGrade I(判断不可能)にした印象を受けました。




密閉式術衣着用



日整会プロジェクト調査によると、SSI発生率は脊椎instrumentation手術では密閉式術衣着用ありで9.5%、なしで3.4%と優位に密閉式術衣着用群で高値でした。


人工関節置換術でも密閉式術衣着用群でを着用していた群が有意にSSIの発生率が高かったとの報告があります。


バイオクリーンルームの否定ほどにはインパクトは無いですが、影響が大きいためにガイドライン策定委員会がGrade I(判断不可能)にした印象を受けます。




骨・関節術後感染予防ガイドライン2015でGrade Dにされてしまうと、判断能力の無い司法によって、とんでもない事態が引き起こされてしまいます。


正直に言って人工関節手術を生業にする者としては、仮にGrade Dになっても密閉式術衣着用の使用を中止することは選択し難いです。しかし、使用によって訴訟の標的にされます。


自らの身を守るのか、患者さんの利益(?)を守るのかは難しい判断です。そのような事態に発展しないようにガイドライン策定委員会の先生方には考慮していただきたいところです。





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術前手洗いはもみ洗いでOK!

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Medical Tribune 2014年1月23日号に興味深い記事がありました。「医療機関における環境管理」です。以下、Medical Tribuneからの転載です。


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NTT東日本関東病院外科部長・手術部長
針原 康 氏


手術時手洗いの目的は,片手当たり105〜106個程度の細菌数を102〜103個程度に減少させることにあります。この目的は滅菌水でなくとも水道水で達成が十分に可能です。実際,手術時手洗い後の手指残菌数の検討で滅菌水と水道水で差がないと指摘されています。

2005年2月の厚生労働省の省令改正により,手術時手洗いの設備は従来求められていた滅菌水による手洗い設備は必要とせず,水道水でもよいこととなりました。

ただし,手洗い設備は常時清潔に保たれるようにするとともに,手洗い設備に供給される水道水も定期的に残留塩素濃度を測定するなど適切な管理が必要とされています。


以下、中略


手術時の手洗い法として従来のブラシを用いるスクラブ法に対し,擦式消毒用アルコール製剤を十分に擦り込むラビング法が普及しつつあります。

米疾病対策センター(CDC)による手指衛生のためのガイドラインでは,手術時手洗い時の使用薬剤として①皮膚常在菌を十分に減少させる②低刺激性である③広範囲の抗菌活性を持つ④即効性,持続効果がある—ことが推奨されています。

ラビング法に使用されるクロルヘキシジンを含むアルコール製剤には,アルコール製剤の即効性とともにクロルヘキシジンの持続効果(残留活性)が期待されています。

両法の間で手術部位感染(SSI)の発生率を比較したフランスのランダム化比較試験(RCT)では,SSI発生率はスクラブ法2.48%,ラビング法2.44%と有意差がないと指摘されています。


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結論的には下記のごとくです。
① 術時手洗い後の手指残菌数の検討で滅菌水と水道水で差がない
② スクラブ法とラビング法の間で手術部位感染(SSI)の発生率に有意差は無い


ラビング法は手荒れが少なくなるので、手術が多い整形外科医としては助かります。私も基本的にはラビング法ですが、手指先端のみブラシを使用しています。


尚、従来の滅菌水に変えて水道水を導入する際には、手洗い設備に供給される水道水の定期的な残留塩素濃度測定などの適切な管理が必須です。




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